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【婚活アルゴリズム】#1イライラと同期ミキからのメッセージ

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 #1 イライラと同期ミキからのメッセージ

 

<午後6時過ぎ、オフィスにて>

「お先に失礼します。」

 いつもながら赤木ユイは、左手につけているシックな青色の文字盤をした腕時計の金色の長針短針が示す時刻を確認し、定時を30分ほど過ぎてから仕事を終えてオフィスを出た。今朝オフィスまで歩いた道を逆方向に歩き、地下鉄最寄駅へと続く階段を降りる。駅の改札口上の電光掲示板で自分が乗るべき電車の時刻を確認し、改札口に定期券をかざしてゲートを通り抜けた。

気持ち足早に階段をリズムよく降ると、タイミングよく電車がホームに入ってきた。今日は仕事で嫌なことがあった分、タイミングよく電車が来るだけでなぜか少し安心した。ホーを少し真ん中へ向かって歩いてから電車に乗り込む。

 

いつものことだが、この時間でも電車内の座席はほぼ空きがなく、私は優先座席の前でつり革を持って立つことにした。右肩にかけた鞄からイヤフォンを取り出し、ジャケットの左ポケットから取り出したスマートフォンのイヤフォンジャックに差し込んだ。音楽アプリのアイコンをクリックし、仕事で腹立たしいことがあった時に聴くことにしている曲の1つ、アデルの「Rolling in the Deep」を選択した。

 


Adele - Rolling in the Deep

 

We could have it all...

(もう少しで全部を手に入れることができたのに...)

Rolling in the deep...

(あんなにしっかりと繋がっていたのに...)

1つ目のサビのところでため息をつき、ユイはスマートフォンから顔を上げた。つり革の向こう側には結婚式場の広告が掲示されていた。こちらを向いて幸せそうに微笑んでいるウェディングドレス姿の女性がまるで自分を嘲笑っているように感じた。

 

ああ、今日はあんなことがあったから、ムカつく。イライラする。

 

「赤木さんは女性だから優遇されているんでしょ。いいよねぇ。」

今日の午後に取引先の男性営業にエレベーター内で言われたひと言が、まだユイの頭の中でグルグルと回っていた。

 

ああ、思い出すと10倍ムカつく。何で同じ会社でもない人にそんなことを言われないといけないわけ?私がもし男だったら絶対にそんなこと言われないのに。第一私は何もしていない、ただ、あのプロジェクトに関わっているメンバーの中で一番若いだけでしょう。女性かどうかは関係ないじゃん。どうしていつも私は男性に嫌味を言われないといけないわけ?意見をハッキリと言う「女性らしくない」私の性格が気に食わないんだったら、そう言えばいいだけでしょう?

 

大学を卒業して今の会社に新卒で入社してから、周りは9割が男性という業界にずっといる。仕事の経験を積めば積むほど、セクハラまがいのことを言ってくる男性に遭遇することが多く、自分の中で男性に対しての嫌悪感が募っていくのが分かる。そういう嫌なことを言ってくる男というのは、男性全体の一部でしかなく、他の男性も含めて一般化してはいけないことは十分分かっている。頭では分かっているけれど、どうしようもできなかった。

 

ブルルッ、ブルルッ。

 

イライラをどうやって沈めようか考えていると、左手の中のスマートフォンが振動した。スマートフォンの画面を見ると、同期の白井ミキからのメッセージだった。

「お疲れ様!面白い動画をネットで見つけたから送ります。また母親からお見合いの話がきたよー(^^;) ユイちゃんさえ良ければ、今週末にでもお茶できたらまたお話ししたいなあ。」

メッセージの末尾にはその動画のリンクが貼ってある。

 

後で家で晩ご飯の後にでも見よう。

ユイは少し口元を緩めながら、そう思った。

 

白井ミキとは入社直後の新人研修で同じグループになってから意気投合し、それ以来、数週間に1度のペースで週末にランチかお茶をして何時間でも話ができるほどの仲だった。ユイとミキは所属部署が違うため、勤務先も違うので職場で顔をあわせることもなく、仕事上の接点も少ない。だから自然と週末に2人が会うときは、仕事の話よりもプライベート、特にミキの婚活の話で盛り上がることが多かった。ミキの母親は娘にお見合い相手を見つけてセッティングするほど、娘ミキの婚活にミキ本人以上に熱心だ。ユイの直感だが、この動画もきっと婚活関連の動画でないかと思う。

一方でユイの母親はミキの母親と違い、結婚を急かすような言動をユイの前でとったことは今までなかった。が、この前の休暇で帰省した時に、孫は欲しいというようなことをほのめかされた。そんなことがあってから、ユイ自身も「結婚」という漢字を見るたびに心を引っ掻かれるように感じるのだった。

 

結婚、子ども、そして仕事。28才になり、俗に言う「アラサー」であるユイにとって、そんな人生のテーマがまるで昔流行ったゲームのように、ピコピコと自分の意思とは関係なく次から次へと頭上から落ちてきて、自分は慌てるだけで何もできない無力な存在であるかのように感じ始めているのは確かだった。

 

<午後9時過ぎ、自宅にて>

ユイは帰宅してから調理した、豚肉とピーマンの中華風の炒め物と、お湯を注ぐだけの即席スープ、解凍した白ご飯、そして昨日の残り物の酢の物という夕食をとった後、食べ終わった食器の洗い物を済ませた。夕食後に飲むことが日課になっているカフェインレスのルイボスティのティーバッグをコップに入れ、電気ポットから沸かしたてのお湯を注いだ。そしてそのコップを手に取り、窓際のパソコンデスクの前に向かった。

 

ルイボスティの入ったコップとスマートフォンをデスクの上に置き、ノート型パソコンを起動した。パソコンが立ち上がるまでの間、帰宅途中の電車内で受信したミキからのメッセージをもう一度スマートフォンの小さな画面上で開いた。そして動画のリンクをスマートフォンのメモアプリにメモとして保存し、ノート型パソコンのメモアプリから同期されたそのリンクを含むメモを開き、動画のリンクをクリックする。スマートフォンで見るよりも、ノート型パソコンのより大きな画面で見る方が見やすい。

 

動画のサイトが立ち上がった。ミキが送ってきたのは、エイミー・ウェブ「私がオンラインデートを攻略した方法」という動画らしい。へえ、面白そう。ユイは動画の再生マークをクリックした。

www.ted.com

 

 

つづく...

 

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noteでも連載中。

アラサー女子がアルゴリズム的思考を婚活に応用したら理想の人に巡り会えた話「1. イライラと同期ミキからのメッセージ」|アヤサカ|note